音無く忍び寄る大きな鎌は
偶然か必然か判別する前に振られている。

どちらにしろ人々はこう言う。
・・・死神が来た。と。


死神に出会った生贄


「おや、久しぶりだね。
これからどこかにいくのかい?」

一台の荷物を沢山積んだ馬車が止まった。

「あぁ、向こうの山に住む村人に物資を届けにさ」

山から少し離れた、小さいけれど活気が溢れる行商の街があった。
そこでは地元の商人と旅の商人達が情報交換を行う場所でもある。
今日もまた地元の商人と旅商人の何気ない会話が飛び交っていた。

「・・・あぁ・・・あの村か・・・」

地元商人の顔は渋いものであった。
旅商人が首を傾げる。

「何かあったのかい?」
「いや・・・最近雨が全く降らないんでね。ほらそこの川をみなよ。
もう水が枯れてヒビが入ってやがる。
こちらはもう少し持つが向こうの村は今頃干ばつに苦しんでいるだろうよ。
元が作物の育ちにくい土地なんでね」

旅商人はにやりと笑みをもらす。

「そりゃ良い事を聞いた。
食い物をはじめ水を持っていけば大もうけだ」

地元商人は首を振った。

「・・・あの村は昔から変な噂しか聞かない。
今の水不足を何とかするために生贄を出したという噂もある・・・。
あまり関わりを持たない方がいいぞ。
あげ足を取って、恨みをかわんよう気をつけな」
「恨みを買うのを恐れていちゃこの仕事は勤まらんよ」

そのときバサリと布を翻す音が聞こえた。
二人の商人の間に人が通るような感覚があった。
しかし、目の前には誰も見えなかった。ただ相手といつもの光景が見えるだけ。

「・・・?」

いつの間にか黒装束を身につけた青年が歩いていた。
あんな青年自分の周囲にはいなかった。いつの間に自分達の近くに・・・?
地元商人の問いに旅の商人はまた話に意識を戻した。
黒装束の青年のことは頭から消えていく。

「・・・生贄か・・・」

黒髪、黒い瞳で黒衣をまとった青年が口元に笑みを浮かべた。
そこへ行ってみるもの面白いかもしれない。

++++

その村は一ヶ月以上も雨が降っていなかった。
山の中腹にあるその村は何の変哲も無い集落であった。
山の中にいる動物を狩り、畑を耕し、木の実を取る。
外との繋がりは薄いがそれでも自給自足でやっていけた。

しかし、今は青々しく野菜が並んでいたその畑も長い日照りのせいで干からびた黄土色の土がひび割れていた。
草も緑から黄色に変色しており、もはや干からびるのを待つだけとなった。
木になる果実は全てもぎ取られ、葉は乾燥し徐々に落ちていく。
井戸は枯れ、周囲に虚しく水をくみ出す桶が転がっていた。
これももう数日は触られてはいない。
木の幹に寄りかかっている人間がいた。
しかし既に息はなく、ただの物体と成り果てていた。
そんな死体が道端や畑の中にいくつかあった。
人々はほとんど家の中でただ雨が降るのを待っていた。
外に出たとしても影の中で座り込んでいる。
口をあけて声を出そうとするが喉が渇いて、掠れた声しか出ない。
彼らの目には絶望と、自然に対する憎悪の色しか映っていなかった。
手や首にはこの村独特の飾りがかけられていた。
誰もがこの飾りを掴んで祈るように神への祈りを心の中で唱える。
ある人物の視線が上へ向かった。
憎らしいほど雲ひとつ無い見事な晴天であった。

小さな村から更に山を登った。
木々がまばらになり、岩肌ばかりが目立つところまで来た時、人工的に作られた階段を発見した。
それは更に上にある洞窟へと繋がっている。
洞窟の中には灯りを灯すために一定の間隔て燭台が取り付けられていた。
既に蝋は溶けてしまっており使い物にならない。
黒衣をまとった青年は暗闇の中を構わず進んでいった。

「・・・だれ・・・?」

洞窟の最深部らしきところから声が聞こえた。
青年は洞窟の開けた場所の入り口まで来て足を止めた。
上に穴が開いているのかそこだけ光が差していた。
周囲には水晶の結晶が出来ていて洞窟内をきらきらと輝かせる。
中央には大きな祭壇になっていて、その上には十五、六ほどの少女がいた。
美しく飾られた少女は美しくも見えたが、何日もそこにいたのかかなり憔悴している。
手足は拘束されており、そこから動けないようだ。
青年は静かに少女を見下ろした。

「・・・誰よ・・・あなた・・・・
あの・・・あの村の阿呆共ではないようだけれど・・・」

青年はその問いに沈黙した。
少女はゆっくりを青年を上から下まで観察した。

「・・・死神みたい・・・」
「・・・・死神だ」

冷たい声が空間内に響き消えた。
少女はその答えに驚くことなく、むしろ納得したように天井を見上げた。

「・・・そう・・・本当は雨の神様が迎えに来てくれるはずなのにな・・・」

うつろな目で少女は微笑んだ。
死神は静かに少女を見下ろしている。

「・・・ねぇ・・・本当に雨の神様なんているの・・・・?
私が死んだら・・・あの村に雨は降るの?」

少女の問いに死神は答える。
表情は変わらず無表情のままだ。

「さてな・・・・
もっとも・・・祈りや生贄だけで動くような神はいない。
すべては自分の気まぐれだ。
生贄にされているわりには神を信じていないのだな・・・」
「本当に神を信じているものなんて一人もいないわよ・・・
生贄だってただの気休め・・・
何で私がこんな目に?なんであんな村のために意味無く死ななくちゃいけないの?」

少女が自虐的に笑った。

「あいつらは言ったわ!村のために、皆のためにと・・・・
神は人々を救ってくださると。
・・・人々・・・?
その中に私は入っていない。
私以外の人々が助かる・・・そんなの理不尽よっ!」

少女の声がだんだん荒げられていく。

「私は村のために一生懸命働いた。
村でも仕事は一番だったし、重要な仕事も沢山任されていた。
男からはモテたし、女からも好かれていた。皆からも愛されている自信はあったのに!
・・・生贄に選ばれた瞬間・・・あいつら全員が全員喜んだわよ。
反対してくれる人はおろか、誰も同情してくれる人すらいなかったっ。
何を基準に選ばれたのよ。
一番優れた人間を神に捧げればいいわけ!?
そんなんで神は本当にあんたらを救ってくれると思っているわけっ!?
とんだ妄想だわ。いい加減にしてよ。
はっ、私がいなくなったら、困るのはあいつらだわっ
せいぜい後の生活に不便すればいいのよ。
報いよ、これは報いだわっ!」

少女の目が憎々しげに歪んだ。

「あんな村なんて滅びてしまえば良いのよっ!!
・・・皆・・・死んでしまえっ!!」

少女はそこで言葉を切った。
そして嗤った。

また洞窟内に静寂が訪れた。
少女は息を整え、その顔に笑みを浮かべて死神に言った。

「ねぇ・・・死神って人を殺せるのよね」
「あぁ・・・・」
「だったら・・・私の命と引き換えに・・・
村のやつらを皆殺しに・・・」

死神は興味なさそうに少女を見下ろした。

「まぁ・・・そうだな」

死神は大鎌を取り出し少女に向けた。

「・・・約束・・・してくれる?
してくれるんだったら・・・この命・・・安いわ。

届きもしない神への生贄で死ぬくらいなら、確実に願いがかなえられる死神にこの命くれてあげるわ・・・」


死神はその首に向かって振り下ろした。

「・・・まぁ・・・気が向いたらな」

鈍い音と同時に紅い血が祭壇を染める。
苦痛に悶えていた少女の動きが止まった。
死神は少女を一瞥し、祭壇を降りた。
紅い血のついた大鎌を一閃し、血を払った。

洞窟の中は淡い光しかなかったため、外に出ると太陽の光が眩しく思えた。
死神は手をかざし、眩しそうに目を細める。
冷たい湿った風が死神の頬を撫でた。
ふと空を見上げて、目を細める。
空にあるのは徐々に少なくなっていく、水色とそれに侵食していく灰色。
太陽が雲に隠れる。そして周囲は見る見るうちに暗くなっていた。
黄色い稲妻が一閃。
それを合図に空から雨が降り出した。

眼下の村から歓声が聞こえた。
死神はしばらく村の様子を眺めていた。

「・・・皮肉なものだ・・・」

乾いた大地も潤い、枯れた植物も少し生き返ったように見えた。
歓声が歓喜の歌に変わる頃、死神は村を訪れた。
先ほどとは打って変わって、人々は外に出てそれぞれ踊りを踊っている。

「あれ、お兄さん、何処から来たんだい?」

村人の一人が死神に声をかけた。

「・・・しばらくぶりの雨だそうだな」

問いには無視して死神は話しかける。
口元には微笑があった。
村人は破願して答えた。

「あぁ、三ヶ月ぶりの雨だ!
これで俺達は助かった!やはり生贄を差し出してよかった。
雨の神様は我等を見捨ててはいなかった!!」

そういって、村人は人々の中に混じっていった。
死神は村を後にした。


++++


「・・・せっかく一儲けできたと思ったのによ〜。
昨日行ったら警備の奴らが山道に立っていて通行禁止だとさ。
俺もこんな悪い道通りたく無いけどさ・・・まぁ仕方ないさな」
「商人も大変なもんだな」
「これが仕事さ。仕方ねぇ」

狭い山道を商人と黒装束をまとった青年を乗せた馬車が通っていた。
すぐ隣には崖があり、踏み外せばひとたまりも無い道であった。

「・・・で何故山が封鎖されていたのだ?
山を登れば村があったのだろう?」
「その村・・・というかその村一体は別に雨も降れば晴れの日もある普通のところだったんだ。
それが、その村は四ヶ月雨が降らなくて干ばつの被害にあっていた。
だが、一ヶ月前に雨が降った」
「それは商売にならないな」
「そうなんだよ。でも日用雑貨くらいは売りにいけるだろう?
・・・それが不思議なことは何回も続くようで・・・一旦雨が降るとずっと振り続けたのさ。
一ヶ月間。」
「・・・・・」
「そうすると、また新しい作物を植えても育たない。
一旦緑も再生したらしいんだけど、連日の雨で一気に枯れてしまったらしい。
村人達は再度飢えに苦しんだ」

そこまでくると結論はでたも同然だ。

「村人達は・・・全滅か」
「あぁ、たまたま伝染病も出たらしくてそれが一気に広がり村ごと破滅に追い込んだ・・・って話だ。
全く怖いねぇ・・・・」

死神の口元に笑みができた。
そのことに気付かず青年は続ける。

「・・・あの村、干ばつが酷かった時に一人の少女を生贄に出したそうだ・・・。
その少女の祟りだっていう噂が持ちきりさ」
「祟りか・・・。
死神が見えたって話も聞いたがな。」
「・・・死神?まさか・・・
そんなもんいるわけないだろう」
「・・・そうだな。
信じるも信じないも自由だ。
・・・さて、この辺で下ろしてもらおうか。助かった。」
「は?
次の街までまだ数時間はかかるぜ?この崖の道を抜けるのにしても一時間は・・・・」
「大丈夫だ。下ろしてくれ」

青年の申し出に首を傾げながらも商人は馬車を止めた。

「助かった」
「何が目的か知らんが・・・まぁ気をつけて」
「・・・そちらも・・・・」

馬車が進み始めた。
しかし馬が数歩歩いたところで馬車が大きく揺れた。
崖に面している車輪が一つ外れたのである。
荷物を乗せた馬車は一気に傾き崖の下に転落していった。

商人は落ちていく際に崖の上を見た。
黒装束をまとった青年が笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
目が合い、商人の背筋が凍りついた。

「・・・しっ・・・・死が・・・・」

商人の言葉は最後までつむがれることはなかった。

死神が直接手を下した人間の死の原因の一パーセントにもみたない。
しかし、人々は奇怪な減少を死神のせいに例えることもある。
死神が見えただけで、死を死神のせいにするのは間違っている。
・・・死は人々に平等に訪れるものなのだから.



ーあとがきー

ということで死神第・・・・五話目でしょうか?
ハッピーバースディ倖呼殿。君の覚えやすい誕生日のおかげでこのシリーズ続けられております。
ということで予告通り我が友、倖呼に捧げますこばなし。

・・・ネタはあったけどやはり書くのしんどかったですー。
小説から離れていたしな。うんうん。
今後ももっと精進すべきですね。

中々会っても、メールすらしてない状態ですが貴方の健康と幸福を祈っております。
また帰ってきたら連絡くださいませ。

貴方の誕生日に心からの祝福を。


2006.11.11 月城チアキ。

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