全ては一つに繋がった


その後ゼルフから連絡が届き、三日間のディアマンテでの有給が与えられた。
パスランもそれにあわせてディアマンテにやってきた。フロートやアリス達も交えて、ゼルフの一員ではなく本当の若者として私達はディアマンテで遊んだ。
一番困ったのはネズミ達の事だった。
何故か十匹いたネズミが増えに増えてその倍近くになっていた。
おかげでチーズケーキ論争は激しさを増し、足りないと全員から大合唱。
その辺のケーキ屋でチーズケーキもう一つ買ってくる羽目になったのである。
タスクはしみじみこの能力を選んだのが間違いだったかもしれないと感じた。
しかし実際役立った面も、多々あった。
現地の動物に道を聞けたり、暇なときにはその辺猫と仲良くなれたりするのでそれなりには便利な能力である。

結局アルファーノ家とクリハーツ家はというと、家ごと全て取り押さえられた。
アリスのことはタスクが直接本部に掛け合って親とは関係ない事を証明し、本部もそれに応じたので無事一般人として世間で生きていられるようになった。
彼女の身柄はこの際一緒になってしまえと、ライアンに引き取られる事になった。
彼は両親や親戚、兄弟を全て亡くし、今は一人で暮らしているという。二人の同居に誰も反対する者はいない。


そのまま、楽しいままで三日目が終わろうとしていた。
夜、私達は飲食点の一角を借りて、最後の晩餐を楽しんでいた。
アリス達とも明日オスポンドについたらお別れである。それと、初任務成功の打ち上げだ。

「・・・そういえば、ずっと気になっていたんだけど・・・。ライアンって・・・オスポントの人じゃないよね?」

タスクが以前から疑問に思っていた事だった。
彼を見たときから少し違和感を感じたのだ。全員の視線がライアンに向けられる。ライアンの肩がピクリと動いた。

「確かにそうだよな。それカラーコンタクトいれてるだろ。」

続けてシークルも言う。

「・・・プロの目は誤魔化せないわよ。さぁ、白状して御覧なさい。楽になるわよ」

聖女フロート様、もとい女王様降臨です。
みんなの視線に当てられたライアンはしばらく無言でいたが、やっと意を決したか懐から指輪をだした。
それを見たアリス以外の人は皆固まった。

「それってもしかして・・・。
風の国の王族の指輪ですか?」

皆の気持ちを代表してパスランがおずおずと聞いた。
王族の指輪でなかったらレイス・コレクションに入っているほど価値の高いもので、コレクションに入っていなくても一度は是非みたいお宝の一つだった。
まさかこんなところで見れるなんて・・・。

「まさか、貴方生き残りの王子様?」

タスクは、やっと思い出した。
ディアマンテに来る前にテレビでみた風の王国の人達の肖像画に彼らしき人も写っていた。
アリスもそれには開いた口が閉まらなかった。

「今、その指輪、裏組織の人間がかぎまわってるらしい。
王国の遺産全て受け継げるがその分命を狙われる・・・どうするんだ?これから」

ブレーブが、実際問題点を上げる。冗談ではなく彼らの身に危険が及ぶのは時間の問題だろう。

「とりあえず、アリスに会う前までは、この風使いの能力を完璧に使いこなせるようになって、王国に戻る予定でした。
今でも民達は武力制圧されていて、国内は荒れていますから。でも今は・・・」

道理で一人で裏組織内に攻めてこられた上に三階まで来れたわけか・・・。
タスクはあの室内にいきなり吹き込んできた風を思い出す。あれを戦力とすればかなり強いものとなるだろう。
その場に無言が流れる。ライアンもアリスも悩んでいるようだった。
その無言を立ちきったのは、アリス。

決意した目でライアンを見た。

「風の王国の人達を助けるのは貴方しかいないのでしょう?すぐに帰って人々を助けるべきです、ライアン。
私はここに残ります。だから、貴方は王国へ」

強い言葉だった。
やっと最愛の彼と一緒になるチャンスが目の前に来ているのにアリスはすぐに答えを出した。
ライアンが背負っている者は数百万という命。彼にしか助けられないその人達を見捨て自分達だけ幸せに生きていくわけにはいかない。
タスクが、アリスの真っ直ぐで意志の強い目を見たのは二度目だった。
彼女はいつだってそうだ。自分を犠牲にしてでも他を守りたがる。

ライアンは首を横に振った。彼女の意見を聞くまでもなく自分の考えを決めていたようだ。

「アリス、良ければ君も一緒に王国へ来て欲しい。また元の平和なくにに戻れば素晴らしい国だ。
俺一人じゃ、何年かかるか分からないけど、必ず王国を取り戻すから」
「人事不足なら私達にお任せよ。
私達が上に言えば特別料金でお手伝いしてくれる。
どうせならオスポントの王様に直接言っちゃえば?風の王国が潰れて困っているのは皆同じよ」

フロートが助け舟を出した。むしろ彼女的には面白そうというのがメインで次に助けたいという気持ちがあるのだが。

「皆さん・・・」
「大丈夫、貴方の力はあの突撃で見せてもらいましたが、かなりの強さがあります。自信持ってください」

タスクが笑って言う。強く頷いたライアンに私達も何か勇気をもらった。再度私達は乾杯した。

新たな希望の始まりに。


そんな、こんなで物凄く濃い私達の任務は正式に終了を認められた。
修了書を貰い、タスクは会議室へと向かう。

「よぅ、ヒメ。おはよう」
「あっ、おはようございます。シークル」

彼とは来る時間帯が一緒なのか、ほとんどの日会議室に行く途中に出会う。
久しぶりに戻ったゼルフ本社だが、周りから受ける視線はいつもの倍痛かった。
既に噂は広まっているらしい。
タスクは内心盛大なため息をついた。
元々皆の憧れのフロートととても親しい上に、今回チーム員は美形揃い。
それだけでも恨みの種なのに『ヒメ』と呼ばれていることがどこからか知らないがばれたらしい。
一端知れ渡れば、それは急速に広がりまた恨みの種となる。
そして久しぶりに戻ってきた本人の前でその種は急激な成長を見せている。

タスクは何とも言えない視線に、今回顔を上げられるほどの度胸は持ちあわせてはいなかった。
しかも隣にはシークルがいる。彼はどのように見ているのが知らないが、大体察しはつくだろう。少し罪悪感が湧く。
そう歩いていると、不意に肩をぶつけられた。
明らかにわざとであるその行為に下を見ていたため気づかなかったタスクはそのままバランスを失う。
が、それも誰かに抱きとめられる。

「貴方もう少し前を向いて歩きな・・・」

ぶつかってきた本人が嫌味を返そうと振り返った瞬間、彼女の言葉が止まった。
周りにいた女達もくすくす笑っていたがその笑いも消えた。
この一角が急に静かになった。

「・・・大丈夫、ヒメ」
「なっ、シルバ・・・コルト」

どこから来たか、いつもギリギリになってくるシルバとコルトが今日ばかりは早く着ていたらしい。
気がつけばシルバの手の中にいる。ぶつかった女は口を開閉している。
三人の冷たい視線が彼女に突き刺さった。

間。

「あっ、ごめんなさい。今後気をつけますっ」

そう言って、女達はすたこらと逃げていった。それを見送り、いい気味だとシークルは言った。

「ああ言うの見てると本当にいじめたくなっちゃうよね。あの反応最高」
「本当にね。ヒメ、大丈夫?」
「はい。」

あんたらは面白いかもしれないが、私にとっては更に恨みの種が増えそうで鬱この上ない。
助けてもらったのは嬉しいのだが、その後が怖くてしょうがない。
気が進まないままに私は三人の美形に囲まれ会議室へ行くことになった。
勿論、冷たい視線は止む事はない。むしろ、それが何割か増しているのは気のせいだろうか。
四人で会議室に行くとパスランが既に到着していた。しかしいつも彼と一緒に揃っているはずのカイの姿が見当たらない。

「カイは・・・知らない?」
「いいえ、見てないですけど。
まぁ別に遅刻しているわけじゃないですし、そのうち来るんじゃないですか。・・・ほら」

私達が席につこうとした時、入り口の扉が開いた。
カイだと思い、無意識に入り口に視線を移した彼らだったが、入ってきた人物を見るなり全員が固まった。

『・・・誰?』

入ってきたのはカイでもなく、見たこともない好青年。
髪は短く、瞳と髪は混じりっけのない黒。その容姿はこのメンバーに新たな華が加わったようにかっこいい。
私達は、必死になってフリーズした脳を解凍し始めた。
仮に彼がカイだとしても髪の色は違うし、陰気な雰囲気を放っている彼とは似ても似つかない爽やかさ。
固まっている自分達を見て彼は微笑した。もし、彼がカイであればこんな時も無表情は筈だ。

「・・・何、どうした・・・?」

その声を聞いて一同瞠目した。
ありえないと脳が叫びをあげている。
否定に否定を重ね、それでも出てきた答えをタスクがやっとこさ声を出して言った。

「・・・カイ?」
「・・・あぁ」

・・・・・・。

沈黙がこの部屋を包んだ。
とりあえず、カイは部屋の扉を閉めて中に入る。本人だけが何事もなかったようにしているが、こっちとしては心臓に悪すぎる。
そもそも彼の髪の毛は白で瞳は青色ではなかったか?

「っていうか、どうしたよ、
その爽やかスタイル・・・」

シークルが未だに信じられない、といった声でカイに問う。
本人は、以前の彼を微塵も感じさせないような声音で言う。声に感情がこもっているのが普通なのだが、彼の声だと逆に違和感がある。

「元々俺はこうだった。
とある事情で学校はいる前に白のヅラ被ってカラコンしてたから、誰も気づかないのも無理ないけど。」
「もしかして、性格の方も」
「学校入ってから演技してた」

何そのむかつくガキは。性質悪りぃ。
これにはこの中で変装に一番長けているコルトも何も言えないでいる。
勿論、変装するのも見破るのも訓練されている自分達も教官でさえも彼の変装に騙されていたのだろうか。
タスクはその呪縛から何とか逃れられたと同時に違和感を覚えた。
感じとしてはライアンと会った時と似ている。
過去にどこかで見た事あるような、ないような・・・。
タスクはとりあえず今はその考えを置いておき目の前のことに頭をいれかえる。

「じゃ、カイ席について。少し話するから。」

カイは言われたように席につく。やっぱり、まじまじと彼を見てしまう。
やっぱりあの髪の毛が無性に長くて陰気だけど存在感があった彼がいなくなった空間に物凄く違和感がある。
やっぱり慣れであろうか。
タスクは修了書を机の真ん中に置いた。一同それに目を通す。

「これで、私達の初任務は終了です。言われた通り、これで現実世界に戻れる事が正式決定しました。以上解散。」
「ちょっと待ってヒメ。それだけ?」

やることはやった、さぁ帰ろう、とばかりに立ち上がったタスクにシークルは待ったをかける。
タスクは当前というように言った。

「えぇ、もう帰れるなら帰るにこした事はないわ。じゃ、また次の任務まで。」
「ちょっと待ってよ、これから初任務無事終了の打ち上げするんじゃないの?」
「それはディアマンテで盛大にやったじゃない。」
「じゃ、カイの見事変装解除祝いに。」
「祝い事の条件に人を勝手に使うな。」

容赦なくカイが突っ込む。
本当に性格の方も変わったようだ。
本人はこれで普通のようだが、やっぱり慣れないと違和感ばかりが先に立つ。タスクは前に向き直って言った。

「・・・こんな男ばかりのむさい所に長時間いられたもんじゃないわ。帰らせて。
・・・現実世界で気になってることがあるの。」
『はい?』

カイだけではない。この一週間で確実にタスクも変わってきている。恐らく前者が本音だろう。
初めて会った時の彼女からは出てこないような言葉が飛び出し、彼らは絶句した。
彼女の男嫌いはそれなりには緩和してきたのだが、それと同時に眠っていた本性が目を覚ましてしまったらしい。
シークルは任務中の明け方のホテルで見た恐ろしいほどのタスクは演技だと思っていたが、それは演技ではないかもしれない。

タスクは一礼して部屋を出ていった。それと同時にカイも立ち上がった。

「俺も帰る」

彼もタスクの後を追うように出ていった。
パタンと閉まった扉を見届けて残った四人は、大きく息を吐いた。

「なんだつまんないの」

パスランが二人が行った事を確認して、ある書類を机の上に置いた。

「面白い事があるんだけど、聞く?」

三人が書類に興味を示し、目を向ける。パスランは話し始めた。

「昔々あるところに二人の『天才』と呼ばれた男の子と女の子がいました」
「これは」
「そう、二人の履歴書。ちなみに学校入る前のね。
特にカイについて気になってたから調べてみたら面白い事が出てきたよ。
偶然、つーかこれは運命にも近いよね」

タスクの攫われた時のカイ怒りは半端ではなかった。これは何かあると思い調べてみたら案の定だ。

「ということは、もう隠す必要がなくなったってことか?」
「そうなんじゃない。僕達は蚊帳の外ってわけ。本当に天才ってのは扱いにくいね。
・・・とりあえず、一杯やっとく??」

パスランが冷蔵庫からジュースを取り出した。まぁ元の世界に戻る前に少しくらい贅沢していっても構わないだろう。
シークルが書類から手を離し、ふと笑う。
現実世界ということで思い出した。このメンバーは・・・。

「まぁどうせ、ここで別れても直ぐに会えるし。いっか」


タスクは廊下を歩きながら考えていた。
知っている人に似ている。
勿論その彼は、カイという名前でもなかった。しかし、黒い髪に瞳、そして面影が凄い似ている。
似ていると思うからだろうか。本当は打ち上げやってもよかったのだが、彼の顔を見ていられなくなったのでとっさに部屋を出てきてしまった。
誰もいない廊下を必死に歩く。早く現実世界に戻って、このことを忘れたい。

「ヒメ」

後ろから呼びとめられてタスクは振り向いた。心拍数が徐々に上がっているのが分かる。

「カイ、何か用?」

彼は頷いてポケットから何かを取り出し、私の手を取った。そして手のひらに冷たい物が置かれた。
それをみたタスクは息をのんだ。
そして、驚いてカイの顔を見る。

「カルスト・・・なの?」

カイは黙って頷いた。
なんとなくそう思っていたが、現実を目の前に押さえきれない感情が胸いっぱいに広がる。
無意識のうちに目から涙が零れ落ちた。身体の震えが止まらない。
彼に謝らなくてはいけない。
脳が必死に訴えていた。混乱している頭の中でそれだけははっきり命じている。
タスクは、震える喉から必死に声をだす。

「ごめ・・・っ・・・本当にごめんなさいっっ」

涙は止まりそうにもなかった。拭っても拭っても後から出てくる。
見る見るうちに手の中にあるビー玉はタスクの体温で温まっていった。
出せない声を無理矢理出して、タスクは言う。

「私、貴方に酷い事した。
貴方にいったわよね・・・アリスの家で・・・
恨んでもいいって。罵ってくれていいって」

彼の顔を見る。それは昔の彼の面影を残す優しい笑顔。タスクの胸は更に苦しくなる。

「何で貴方は・・・そんなに優しく笑ってくれるの?何で、今まで黙っていたの?
私の事を分かって接してくれていたんでしょ?
私、これから貴方にどう接していいか分からないのっ」

最後の方はほぼ罵声ばじりになってしまった。
非は自分にあることを承知でこんな事を言ってしまう。
昔の関係に、今微笑んでくれている彼に甘えているのだろうか。
彼の性格は分かっている。
悪い事をしてもほとんど怒ることはなかった。笑って許してくれる人だった。

だから、尚更自分の口から出ている言葉は自分の本意とはかけ離れている。

「本当に学校入ってから物凄く探したんだから。でも、見つからなくって。
ずっとカルストの事考えるの嫌だったから勉強して、勉強して。
結局考えすぎて寝れない時はずっと勉強してたのよ。なんで今更になって出てくるのよ。私辛かったの分かってたでしょ?

だって、貴方小さい時から『天才』って呼ばれてたしね。
私が泣いていた時もすぐに慰めてくれて嫌な事忘れさせてくれて、人と付き合うの上手かったもんね。

ねぇ、貴方が『カイ』になったのは私のせい?
なんでカルストを捨てて『カイ』になったのよ。フロートやグレーブみたいに『天才』って皆に羨まれて。
『カイ』になって、無口で陰気くさくて周りからマイナスイメージに思われて、友達もほとんど出来ないし。
貴方、人と話すの好きだったんじゃないの?笑うの好きじゃなかったの?私といた時はいつも笑ってくれてたじゃない。
なんで、それを無理矢理止めようとしたの?
貴方の未来はフロートよりもグレーブよりも確実に明るかったじゃないっっ!!
そう、なんで暗部になんていったのよ。怪盗として貴方は私以上の素質があったのにっ」

最後の方は叫びにも似ていた。何を言っているか途中で分からなくなった。
でも沢山彼に言いたい事があった。分からない事も沢山あった。今ではその疑問が次から次へと作られていく。

「タスクの言い分ももっともだ。
俺は何がしたかったんだろう」

昔の彼らしい、穏やかで優しい口調が返ってくる。
泣き喚いているタスクを優しく包み込むように抱きしめた。昔と全然変わっていない。

「何で、怒らないのよ」

「タスク、君はさっき言ったね。『天才』と言われ続け未来が明るい・・・と。
でも、それは君だって条件は同じはずだった。俺もタスクの才能には心底惚れ込んでいたし。
でも、その未来を壊したのは俺だった。

『カイ』になったのも自分を捨てたのも暗部に入ったのも全てタスクから逃げていたのかもしれない。
暗部に入ればまずタスクに会う事はないし、変装していればもし今みたいに同じチームに入っても気づかれないですむし。
・・・実際気づかれなかったけど」
「なんで今頃になって正体見せてくれたのよ」

カルストはふっと笑った。

「タスクがアリスの家で胸のうちを語ってくれたから・・・かな。
いつかどうにかして聞き出そうとは思っていた。
卑怯だと思ったけど、やっぱり俺も気になっていたから。まぁあんな男所帯で始めはどうなることか心配だったけど今はもう慣れてきたみたいだしだし大丈夫かな。と思ってね。
俺の方こそ、逃げていてごめん。
やっと暗闇から出てきてくれたのに」

お互い追いかけっこをしていたらしい。
学校に入る前はタスクが逃げ、カルストが追っかけていた。しかし、学校に入ったのを転機にその関係は逆になってしまった。
そして偶然なのか運命なのか、ここにきて同じチームになった。

「『カイ』でいた方が楽だったんだ。感情もなにもかも外に出さなくていいから。
ずっと胸のうちにしまっておけばいいから。髪で顔を隠していたのも、あまり話さなかったのも、タスクにばれると困るから。
君の才能は素晴らしいからね。少しヘマをしただけでばれてしまう。
同じチームになってから心中いつもひやひやしぱなしだったよ」
「馬鹿」
「君がいうなら馬鹿なんだろうね」

自嘲的にカルトスは言う。タスクは徐々に腹が立ってきた。
何故、私の事をを悪く言わない?
何故、自分のせいにしようとする?
何故、黙っていた?
何故、何故・・・

「涙はもう止まった?」

タスクは気づく。確かにいつの間にか涙は止まっている。顔を上げるとカルトスの笑顔があった。

「チーム内でやっぱり君は笑ってくれなかったね。よくフロートといた時に笑ってたけど。
俺は君の笑った顔が見たかった」
「あんなところで笑えないわよ」
「笑えるさ、いい奴ばかり揃ってる」

それはタスクも思う事。
同じ条件で彼らがチームにいなかったら、今のタスクはまだとげとげしかっただろう。
カイは優しく頭を撫でた。
人に触れるのも触れられるのも嫌いだった。だけど彼だけは特別安心感がある。

「なんかいつも慰められてばかりね。貴方の泣いてるとこみたことないわ」
「だって、涙流した時なんて記憶にない」

しばらく、見ないうちに彼は性格悪くなったとタスクは思う。
自分も人のことは言えないが、それを相手にすると更に悪いところが見えてくる。

「私はもう帰るわ。
ずっとここにいるのも駄目だと思うの」

カルトスはタスクから身を離す。

「では次回の任務でまた会いましょう、ヒメ」

タスクは笑顔で頷いた。カルトスはそれに満足したのが、またタスクを抱き寄せる。

「・・・?」

一瞬の出来事にタスクは反応できなかった。
他の男ならきっと手か足は出ていたと思うが、彼だからであろうか。何も出来なかった。
唇に残る感触が離れた今でも残っている。何をされたか分かるまでに数秒かかった。


「・・・カッ、カイッッ!」

「次回君に会う時は是非笑顔が見たいよ。ヒメ」

爽やかな笑顔を残して彼は帰っていった。私は硬直して彼の後姿を見送るしかなかった。

・・・なんてことしてくれたんだ。


気がつくと、そこは部屋だった。
置きあがると、制服のまま寝ていた事に気づく。そういえば、あれから寝てしまっていたんだっけ。
やけに、はっきりとした夢だった。
雅は目を擦りながら時計を見る。
あれから夜を過ぎて、次の日の朝まで寝ていたらしい。我ながらよく寝たもんだ。
下から母の声が聞こえた。慌しい朝が始まる。

変わりない生活を送っていた。
学校の授業はきちんとうけ、たまには友達とメモを回しあいながら。
丁度はっきりとしたかなり生々しい夢の事を書いたらそれが結構うけたらしく退屈な授業もメモ回しで終わった。
六時間目のチャイムが鳴る。
掃除当番もないし、そのまま帰れる。雅は大きく伸びをしてカバンの用意を始めた。
そしていつものように颯爽と教室をでた時、担任とすれ違い肩を叩かれた。

「桜井、ちゃんと生徒会寄ってけよ」
「・・・え?」

一週間分の生々しい夢を見たせいでほとんどの予定が頭から抜けていた。この世界にも問題があった事を今思い出す。
友達が雅の肩を叩いていった。

「頑張れ、素敵な先輩達がそろっているわよ」

雅はむっとする。

「どうせ男でしょ。・・・あぁ、鬱。替わって?」
「無理、私部活」

友達にさっさと逃げられ雅はしぶしぶ生徒会室に向かった。
全く縁のないものだと思っていたため、辿りつくにも少し時間がかかった。

生徒会室には既に電気がついていた。
当たり前だ、時間より五分程度遅れている。
一年生なのにまた生意気なことをしてしまったと後悔しながらも、まぁ男だからどうせ相手にしてもらえないだろうと、扉を握る。
深呼吸して、そして開けた。

「失礼しま・・・
・・・きゃっ」

中に踏み出した所は床ではなかった。開けたところは入り口じゃなくて物置になっていたらしい。
本来ここは左じゃなくて右側のドアを開けなくてはいけなかった。
雅は第一歩で紙で作った花の入ったダンボールに躓き、盛大にこけてしまったのである。
案の定、花は床中に広がった。
室内には全員集まっており、あとは雅だけという状態。かなり目立ってしまった。


・・・最悪。

雅はとりあえず、花を拾おうと起き上がった時、目の前に手が伸びた。

「大丈夫ですか?」
「え?」

視線を上げた先には見知った顔。
雅は夢でも見ているような感覚に陥った。

「なんで、皆?」

奥にいた生徒会長、副会長、書記、会計全ての人がこっちを見て笑っている。
とりあえず、会長が口を開いた。

「明来高校生徒会へいらっしゃい〜。
桜井雅さん。もといヒメ」
「シークル」
「お前がそこでこけると現実味が増すな」
「コルト」
「いやー、まさかこんなに早く出会えるとは思ってなかったよ。こっちの世界で本気で全員探そうかと思ってたのに」
「シルバ」
「本当にあぶなかっしいですね。入り口は左側ですから気をつけてくださいね」
「パスラン」

そして手前に座りこっちを見ている人物を目が合った。

「カイ」
「遅い。時間に正確な君が遅れてくるとは思わなかったよ」

パスランと手早く花を片付け席につく。
何か異様な光景だ。
後期生徒会なのでシークル、コルト、シルバ、カイは二年生。
パスランと私が一年生。そして、順に生徒会長、副会長二名、書記二名、会計となっている。会長のシークルが口を開く。

「えぇ、注意事項は他の生徒の前では夢世界の名で呼び合わない事。それ以外は可。」

いいのかよ。

「そして、今のリーダーは俺だからな。ヒメを頼らない事」
「ヒメの方がよっぽど会長らしいけどな」
「そこ黙る」

和やかに進む話し合いの中、雅は少し思う事を述べてみた。

「あの〜もう夢世界でもないんですし、姫役は終わったので、『ヒメ』っていうの止めてもらえます?」

全員は雅を見た。そして言う。

『却下。』
「・・・え?なんで・・・」

その時生徒会室に携帯電話のバイブ音がなり響いた。
しかも、それは各自の元から聞こえる。たしか携帯の電源は切ってあったはずだ。
不思議に思って、震源を探してみると、ポケットから携帯に似た装置が現れた。
それを開くと画面に文字が移る。曰く、

『夢世界ゼルフ社員になっていただきありがとうございました。一週間のお試し期間はいかがだったでしょうか』

あれ、お試し期間だったんだ。と一同思った。
お試しにしてはかなりハードなものだったが。

『つきましては、ゼルフ社より新たな仕事を申し付けます。
→受ける。
→受けない。』

選べという事だろう。
私達は顔を見合わせた。

「どうする?」
「やっとく?」
「まぁ、どうせメンバーかわらないし。生徒会の書類の内容は向こう行って考えるという事で」
「無理だろ、向こうに行ったら思考は別人に代わっている」
「まぁ別に向こうと違ってこっちはのんびり決めても問題ないし・・・」
「決定か」

彼らは顔を見合わせて頷く。
同時にボタンを押した。


また『夢世界』への扉が開く。


  

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